少し前の日曜日、任地から少し離れた町のある学校へ行ってきた。そこはハッサンが若い頃、18年間勤めた場所で、まわりには小高い丘があり、すぐ近くに道路があるだけの田舎の小さな学校。いつだったかハッサンが「タケ、これはおれの若いときの教え子たちだ。」と写真を見せてくれたその学校。
日曜日だったが、学校に到着すると門が開いていて、一人の老人が出てきた。ハッサンは、その人との再会をとても楽しみにしていたようだった。彼はこの学校のガーディアン(用務員さんのような存在)だったモハメッドさん。「昔はいろんな仕事を一緒にやったんだ。」と教えてくれた。現在はその息子さん(ハッサンの教え子)がその仕事を受け継いで働いている。
その日は、モハメッドさん一家が敷地内のオリーブの木の実を収穫する作業をしていたので、一緒に手伝わせてもらった。プチプチと、気持ちよくとれるオリーブをバケツいっぱいに集めた。敷地内にあるオリーブやレモン、イチジクの果樹などの多くは、ハッサンとモハメッドさんが一緒に植えたものだと教えてくれた。校舎を囲むように植えられたたくさんの木。それらを一本一本見て、触って、確かめながら、ぐるりと一周。ハッサンがその学校を出て15年近く経っている。木はずっとそこにあり、15年、そこでずっと生きてきて、この度、再会。
そして、校内のある教室を見せてもらった。そこはハッサンがずっと子どもたちと一緒に過ごした場所で、机や黒板は新しくなっているものの、当時の面影はやはりあるようで、ハッサンはじっくりと教室の中をまわり、いろいろと懐かしんでいるような表情だった。そこで少しお茶をもらい、教室を出ると、モハメッドの息子さんの奥さんと会った。なんとその奥さんもハッサンの教え子だったそうで、これまたハッサンはうれしそうに教えてくれた。
その後、道路を一本挟んだところにある小高い丘に登ることにした。昔はモハメッドや子どもたちと一緒に登ったそうだ。10分くらい歩いて、軽くパンやツマルを食べお腹を満たし、またさらに登ると、土のブロックでできた昔の家が見えてきた。現在は人が住んでいないらしいが、そこから見える景色と、まわりのきれいな緑がとてもきれいで、しばらくゆっくりしたい気分になる。普段の生活ではなかなか見えない景色、のんびりしていて気持ちよかった。やっぱり、自然がいい。
少し肌寒くなり、学校に戻ろうとすると、小道の脇で若者2人が火をおこして何かを食べていた。「食うかい?」と遠くから呼ばれたので、近づいてみると炭でイワシを焼いている。新鮮なイワシで見るからにおいしそうだったので、ごちそうになった。味付けは塩とレモン、肉厚でアジのような旨味があり本当においしかった。彼らはウジダからずっと南にある町からバイクで海沿いまで来たらしく、その魚も漁港近くで買ったとのこと。こんなふうに、すぐに人との距離が近くなれるのはモロッコのいいところ。いやー、しかしおいしかった。
帰り道中も、「ハッサン!」と地元の人に声をかけられたり手を振られたりするハッサンを見て、教員を続けることの喜びを教えてもらったような、そしてハッサンの歴史を少し感じた一日でした。